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技術コラム

ECUカバーにおける材質選定

自動車の電子制御ユニットであるECUは、エンジン制御からEVの駆動制御まで、自動車の中枢を担う重要な部品です。ECUカバーにはさまざまな性能が求められますが、中でも電磁シールド性能、放熱性、コストのバランスをいかに取るかが、設計者にとって重要な課題となります。今回は、代表的な3つの工法である「アルミダイカスト」「めっき鋼板」「鉄板+電着塗装」を比較します。

金属のシールド性能は何で決まるのか?

シールド性能は、材料の導電率や透磁率だけでなく、対象となる電磁波の周波数によっても変化します。電磁シールドの効果は、「反射損」「吸収損」「多重反射による補正」の3要素で決まり、一般にシェルクノフの式によって表されます。このうち、材料固有の特性と深く関係するのが吸収損です。吸収損は、「表皮深さδ」という指標を用いて評価されます。表皮深さとは、金属内部に流れ込む電流の振幅が表面の約37%まで減衰する深さのことです。比透磁率μr、導電率σ、周波数fによって決まり、表皮深さが小さいほど、薄い材料でも高い吸収効果が得られます。数kHz以下の低周波領域では、比透磁率の高い鉄が有利です。鉄の表皮深さは銅やアルミニウムよりも小さくなるため、薄い板でも高い吸収損を確保しやすくなります。一方、周波数が100kHz以上になると、鉄は磁性材料としての効果が低下し、導電率もアルミニウムより低いため、アルミニウムが鉄と同等以上のシールド性能を発揮する場合があります。車載ECUで使用されるCAN、LIN、車載イーサネットなどの通信信号は、高周波成分を含んでいます。そのため、ECUカバーの素材を選定する際には、「どの周波数帯を遮蔽するのか」を明確にしたうえで、各材料の特性を比較することが重要です。

アルミダイカストはどんなECUに向いているのか?

ECUカバー

アルミダイカストは、高周波シールド性能と放熱性の両方が求められる高機能ECUに適した工法です。ただし、金型費が高額になるため、要求性能だけでなく生産量や製品単価を踏まえて採用を判断する必要があります。ADC12などのアルミダイカストは、カバー全体が連続した導電体として機能します。カバーを適切にグランドへ接続することでファラデーケージを形成し、高周波の電界ノイズを効果的に遮断できます。そのシールド性能は、今回比較する3工法の中で最も高い水準にあります。放熱性にも優れており、ADC12の熱伝導率は約96〜100W/m・Kで、鉄の約67〜80W/m・Kに対して1.5倍程度です。このため、EVの駆動制御やADAS関連など、発熱量の大きい高機能ECUに積極的に採用されています。また、複雑なリブやボスをカバーと一体で成形できるため、部品点数を抑えながら強度や放熱性を高められます。形状の自由度が高く、シールド性能を低下させる開口部や継ぎ目を最小限に抑えやすい点もメリットです。一方、金型の初期費用は数百万円から数千万円規模になる場合があります。そのため、少量生産や試作段階では製品1個当たりのコストが高くなり、経済性が大きく低下します。アルミダイカストは、高いシールド性能と放熱性が求められ、一定以上の生産量が見込まれる高機能ECUに適した工法といえます。

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メッキ鋼板が選ばれるのはどんな場面か?

Niめっき鋼板やZnめっき鋼板は、コストとシールド性能のバランスに優れており、量産乗用車のパワートレイン系やボディ系ECUなど、中量産から大量生産の領域に適しています。

Niめっき鋼板は、表面の電気的な状態が安定しており、カバーの接合部における接触インピーダンスを低く保ちやすい点が特徴です。これにより、接合部からの電磁波の漏れを抑え、高いシールド性能を確保しやすくなります。また、鋼板は透磁率が高いため、低周波の磁界ノイズに対して優れたシールド効果を発揮します。対象となるノイズの周波数帯によっては、アルミダイカストよりも高いシールド性能を得られる場合があります。一方、熱伝導率はアルミニウムより低いため、高発熱のECUには放熱設計上の工夫が必要です。ただし、発熱量が中程度のECUであれば、コストを抑えながら必要なシールド性能と剛性を確保できる有力な選択肢です。

電着塗装はどの用途で最もコスト効率が高いのか?

鉄板+電着塗装は、厳格なEMC性能を必要としない補機系や低発熱のECUにおいて、3工法の中でも特にコスト効率に優れた選択肢です。電着塗装は、量産時の製品単価を抑えやすいことが大きな特徴です。また、防錆性能にも優れており、塗膜が複雑な形状の鉄素地まで均一に覆うことで、腐食の進行を抑えます。自動車部品への採用実績も豊富で、耐久性や信頼性の面でも安定した性能が期待できます。一方、EMC性能には注意が必要です。電着塗膜は絶縁性を持つため、筐体全面を低いインピーダンスで接地することは容易ではありません。ただし、接地部分の塗膜を除去した接地タブや、導電性ガスケットなどを組み合わせることで、必要な接地点を確保できます。シートやミラー、各種補機を制御するボディ系ECUでは、厳格な高周波シールド性能よりも、耐食性やコストが重視されるケースが多くあります。このような用途では、アルミダイカストやめっき鋼板が持つ高いシールド性能が要求仕様に対して過剰になる可能性があります。必要以上の性能を付加せず、用途に合った工法を選定することが、ECUカバーのトータルコストを最適化するうえで重要です。

要求性能に応じた工法選定がコスト最適化の鍵である

ECUカバーの工法選定では、求められる性能の高さに応じて、適切な工法を使い分けることが重要です。その中でも鉄板+電着塗装は、コスト最適化を検討する際には有力な選択肢です。3工法の使い分けを整理すると、高い放熱性と厳格なEMC性能が求められるECUにはアルミダイカスト、標準的なパワートレイン系・ボディ系ECUにはめっき鋼板、補機系をはじめとする低発熱・低EMC要求のECUには鉄板+電着塗装が適しています。車両1台には数十個ものECUが搭載されており、そのすべてにアルミダイカストを採用すると、車両全体のコストが大幅に上昇します。一方、厳格なEMC性能や高い放熱性を必要としない補機系ECUに鉄板+電着塗装を採用すれば、必要な性能を確保しながらコストを抑えることができます。用途ごとに適切な工法を選ぶことで、車両全体のコストを効率的に最適化できます。
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